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2009年9月 3日 (木)

『日本建築は特異なのか』を買う。

過日、国立歴史民俗博物館の企画展覧会「日本建築は特異なのか—東アジアの宮殿・寺院・住宅」を知って図録を通販で買いました。
今の建築史の動向を知るためにも、絶対に仕入れないと。と思い購入した次第です。

さて、展覧会の記事はコチラをみていただくとして、模型を中心に日本・韓国・中国の建築比較を軸として建築史を語る構成のようです。
図録をみると、もともと展示資料が限定されることもあり模型写真や展示資料はあんまり掲載されておらずちょっと残念。
その代わり、論考と現地で撮影された写真を中心に構成していました。図録というよりはこれを叩きに書籍化するといいなと思いました。

読んでいて気になったのは、日本では○○があるけど、韓国には○×がない。といった比較から、両者は似たような面もあるがそれぞれ違うという結論に留まるものが多いこと。
大事なのはその後で「じゃあ、その違いって何を意味するの?」という建築物の変遷や相違点をもとに日本・韓国・中国などの社会構造の違いに迫る術ではないかと思いました。
様式比較や大工道具などの生産技術の比較からモノから既存の歴史学に突っ込んだ視点への展開がみられないのが気になりました。

例えば、前近代日本の天皇律令制(中近世の変容した状態)の御所と、朝鮮王朝の王宮や中国の明清朝の紫禁城では、朝廷と帝王のすまいなどのパブリックと私の空間の位置づけの違いが背景にあると思うのですが、その見通しのもとで建築様式やプラン、意匠を比較検討するという構成などがあるとよいのではと思いました。
図録を読みつつ、私のない知恵をしぼりながら見通しを立てるならば、律令制を採用しながら変容していった日本と、朝鮮朝時代に逆に中華化を加速させた韓国、そして、その本家本元の中華をベースにしつつも女真族や蒙古・ラマ世界が深く貫入した世界帝国の清朝の政治的体制の違いが、それぞれの建築文化の違いに色濃く投影されているという見立ては可能だったと思います。

さらに、建築様式比較としては琉球が加わると違いがみえてよいのではと思いました。
日本的社会に近い面を持ちなが ら册封体制に属することで中華世界の洗礼も受けている両属的性格を持つ琉球を加えることで、前掲の三者にさらに、もうひとつの興味深い素材を用意すること ができたのではないかと。
例えば、思いつくだけでも、韓国も琉球も日本も、どの階層まで中華世界の政治システムで自らを権威づけしたのかが大きな ポイントではなかったか?その中で、日本が最後まで王家が刷新されず武断政治に終始し、あるところは取り入れながら独自の発達を遂げたこと、その社会体制 を背景に上位階層が生み出した産物が日本の建築文化ですので、それを結びつけて何らかの結論を出すのも、「日本建築は特異なのか」という問いへの展覧会で示せる回答のひとつにはなったと思います。

また建築史の展覧会という面と建築様式の展覧会という面が曖昧になっているのも気になりました。
例えば展示資料の年代観などでも、日本などは古代から扱うように仕立てながら、日本も含めて他国も実際の資料はほとんど中世後半以降のものです。それらの資料を古式に基づいているという前提で資料操作をするのは資料学として厳しい。
歴史学や考古学の方々に本気で攻められたらひとたまりもないのではと危惧します。
逆に、16世紀以降の東アジア世界をみる、と年代観を揃えて示せば、すばらしい比較様式史になるのでは、と思いました。
一方、住宅様式についても、19世紀の様相までしか遡及が難しい家屋を素材として、民俗学あるいは建築計画的調査の成果から歴史的に語る方向性も厳しい面があると思います。これ自身も資料の残り具合を考えると仕方ないことですが、その限界性も踏まえつつ、現在のこる遺跡をベースにもっと過去の絵図や資料調査、考古学的成果を組み込むことを方法論として積み立てると、かなりの可能性が広がるように感じました。
いずれにしても、今後、歴史学や考古学との学際的協働を通して建築史が様式史からさまざまな領域に広げていくチャレンジがまだまだ広がっていると感じました。

10年間歴史学の世界に身を置いてあらためて建築史をみてみると、文献史料を軸とした歴史学研究の中で建築史の優位な点(遺構やモノを扱うこと)をあらためて感じる今日この頃。いずれにしても、批判するのはたやすいのでじっくりと先人の研究を読み込んで、城郭史→城館史料学で試行錯誤してきた経験を活かして自分なりに回答を探してみたいと思いました。

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